本居宣長の大東亜戦争

本居宣長の大東亜戦争

宣長の著作に誤解が生じる仕組み、宣長が時局に利用され曲解されるシステム、宣長像の歪められるメカニズムを解明する。

  • 著者
  • 田中康二
  • 出版社
  • ぺりかん社
  • 出版年月
  • 2009年08月
  • ISBN
  • 9784831512420

本居宣長 (1731~1801) が近代日本思想史に残した足跡は必ずしも完全無欠の功績ばかりではない。なかには負の遺産もある。アジア太平洋戦争の時には特にひどかった。宣長の自讃歌「敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」は「愛国百人一首」の一首に撰ばれ、武士道精神を象徴する歌として解された。神風特別攻撃隊の名称 (敷島隊・大和隊・朝日隊・山桜隊) もこの歌からとられた。戦死を美化する散華の精神である。宣長は「日本精神」の権化とされ、大東亜共栄圏統一の理論的根拠とされた。しかしながら、それらは近代日本が構築した宣長の虚像というほかはない。宣長は誤読・曲解され、拡大解釈されて、戦争讃美の具として機能したのである。それは時代錯誤以外の何ものでもなかった。本書は宣長の言説が時局に利用され曲解されるシステム、宣長の実像が歪められて受容されるメカニズムを検証し、近代日本思想史において果たした宣長の役割を解明することを目標とした。なお、「大東亜戦争」の呼称は、同時代的観点に立って対象を見るという立場を表明したものであって、「大東亜戦争」を聖戦として全面的に擁護することを意図したものではない。

表紙の装訂は、前著『本居宣長の思考法』(ぺりかん社、2005年) に引き続いて高麗隆彦氏が担当し、『古事記伝』付録『三大考』第十図・筧克彦『大日本帝国憲法の根本義』所収の皇国概念図・北田宏蔵「新世界地図」をあしらった幾何学文様である。

大学院人文学研究科准教授・田中康二


目次

  • 序論 本居宣長の大東亜戦争
  • 第1章 同時代思想としての国学(上)—幕末を経由して大東亜戦争期に至る
  • 第2章 同時代思想としての国学(下)—日本精神論の流行と変容
  • 第3章 近代宣長像の形成と変容(上)—「松坂の一夜」伝説の成立
  • 第4章 近代宣長像の形成と変容(下)—敷島歌の解釈の変容
  • 第5章 宣長研究と時局(上)—序文に見る時局発言をめぐって
  • 第6章 宣長研究と時局(下)—煽情的宣長論をめぐって
  • 第7章 学統観の変遷(上)—平田篤胤への継承性
  • 第8章 学統観の変遷(下)—徂徠学との関連