「先住民」とはだれか

「先住民」とはだれか

先住民の権利主張とそれをめぐる議論が世界的・超国家的規模で展開している現状を、歴史的・社会的要素を踏まえて多角的に考察。

  • 著者
  • 窪田幸子, 野林厚志
  • 出版社
  • 世界思想社
  • 出版年月
  • 2009年11月
  • ISBN
  • 9784790714385

「先住民」という用語は、1980年代から国際的な場面で盛んに使われるようになったものであり、国連などの国際機関を中心として、その論議は拡大を続けてきた。2007年には、国連において先住民の権利に関する国連宣言が採択された。現在では、世界には5000のグループに分かれる、2億5千万人の先住民がいるといわれる。文化人類学は、伝統的に各地の少数者の研究を行ってくる場合が多かった。そして、このような国際的な動きの中で、調査対象の人びとが[先住民]としての主張を展開するようになる変化に立ち会うことが続いてきた。先住民の典型的なイメージは、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどの、植民国家にもともと住んでいた人々というものである。編著者である、窪田は、オーストラリアアボリジニの調査研究を行ってきており、典型的な先住民と呼べる地域である。しかし、こうした地域以外でも、「先住民」言説は展開しつづけており、さらに広がりをみせている。そのような現実を前にして、各地の事情を一つの遡上にのせて議論する必要を感じていた。そのために、世界各地を専門の調査地とする研究者があつまり、共同研究をおこなった。この研究のめざすところは、先住民概念の問いなおしである。こうして、国立民族学博物館で、3年間おこなった共同研究の成果がこの本である。

第一部では、先住民にかかわる、歴史と理論的問題を整理した。第二部では、いわゆる典型的な (本研究会では顕在的なとよんだ) 先住民の社会における現状についての報告を並べた (オーストラリア、アメリカ、カナダ)。そして第三部では、先住民主張が表れつつあったり、現れる前の段階にあるような、典型的とはいえない (潜勢的) 先住民についての報告を並べた (エチオピア、ボツワナ、タイ、中国、台湾、日本)。こうして多様な状況にある少数者の問題を、先住民という遡上に並べることによって、それぞれの社会で起きている現象について、広い、普遍的な視座から問い直すことを可能となった。

この研究は、将来的にはさらに発展させることによって、それぞれの社会の差異と普遍のポリティックスにかかわる問題の、鍵となる議論を追究するものになると思っており、現在、発展的に調査研究を継続中である。編著者としては、この本はこのような大きな研究視座の成果の第一段階と位置づけている。

大学院国際文化学研究科教授・窪田幸子


目次

  • 序論 普遍性と差異をめぐるポリティックス ― 先住民の人類学的研究
  • 第一部 先住民をめぐる問題
    • 先住民の歴史と現状
    • 先住民問題と人類学 ― 国際社会と日常実践の間における承認をめぐる闘争
    • 「先住民」の誕生 ― Indigenous People(s)の翻訳をめぐるパロディカル試論
  • 第二部 移民国家の先住民
    • オーストラリアにおける先住民政策の展開とアボリジニの実践
    • 都市アボリジニの先住民文化観光 ― 「啓蒙」と「文化」のテキスト化
    • 北アメリカにおけるもうひとつの先住民族問題 ― アメリカとカナダの非公認先住民族
    • イヌイトは何になろうとしているのか? ― カナダ- ヌナブト準州のIQ問題にみる先住民の未来
    • チュピック村落社会の学校にみる先住民の自律
  • 第三部 顕れる先住民主張の諸相
    • 先住性が政治化されるとき ― エチオピア西部ガンベラ地方におけるエスニックな紛争
    • 開発政策と先住民運動のはざまで ― ボツワナの再定住地におけるサンの居住形態の再編
    • カレンとは誰か ― エコツーリズムにみる応答と戦術としての自己表象
    • 先住地を持たない民族の苦悩 ― 中国・東郷族の民族名称変更の動きから
    • 台湾の先住民とは誰か ― 現住民族の分類史と〈伝統領域〉概念からみる台湾の先住性
    • イオルプロジェクトからみる先住民族としてのアイヌ ― 日本の先住民族を取り巻く現状と課題