会津という神話

会津という神話

〈二つの戦後〉をめぐる〈死者の政治学〉

白虎隊、佐川官兵衛、そして宮崎十三八。戊辰戦争や西南戦争での戦死者を会津の人々がどのように認識し、自らのアイデンティティを組み立てていったのかを明らかにする。

  • 著者
  • 田中悟
  • 出版社
  • ミネルヴァ書房
  • 出版年月
  • 2010年03月
  • ISBN
  • 9784623056361

本書における問題の中心は「死者」にある。いずれ死にゆく私たちは、その「死」をいかに受けとめ、そこにどのような意味を見出すことができるのか。

歴史的に見て、死に意味を与えてきたのは、宗教的世界観であった。しかし、そのような世界観に埋没することを容易には許さない近代という時代において、多くの人々は、合理的世界観のもとにおける合理的思考の限界を超えたところにある「死の意味」という問題に、直面することになる。意味を見出せない死とはいわゆる「犬死に」であり、近代においても人々は全力をもってこれに抗う。ナショナリズムは、こうした「死の意味」をめぐって人々に影響力を行使するのであり、それゆえに「近代世界」とはすなわち「ナショナルな世界」を意味してきたのである。

著者が近代会津を事例として取り上げたのは、以上のような文脈からである。戊辰戦争において「賊軍」とされた旧会津藩の戦死者は、東京招魂社 (のち靖国神社) の祭神から除外され、ナショナルな祭祀体系から積極的に排除された。そのような「犬死に」の経験を抱えつつ、それでもなお近代日本という国民国家に生きるほかなかった近代会津の人々は、その後どのようにしてこの非業と不条理とを「克服」し、「解決」していったのか。幕末維新期から現代にかけてという長いタイムスパンをもって本書が注目したのは、近代人のアイデンティティに関わるそのような問題であった。

単なる会津郷土史研究ではなく、それを一歩踏み越えたところで、「死の先達としての死者」と「いずれ死にゆく生者」との関係に迫ろうとする意図を本書から汲み取っていただければ、著者としては幸いである。

国際協力研究科助教・田中悟


目次

  • 序章 死者と共同体
  • 第1章 会津藩の戊辰戦争—近代会津へのプロローグ
  • 第2章 「阿蘇の佐川官兵衛」をめぐる記憶と忘却
  • 第3章 近代会津アイデンティティの系譜
  • 第4章 「雪冤勤皇」期会津における戦死者の記憶と忘却
  • 第5章 戦後会津における「観光史学」の軌跡
  • 終章 “二つの戦後”をめぐる“死者の政治学”