音楽のカルチュラル・スタディーズ

音楽のカルチュラル・スタディーズ

音楽をテーマにした初めてのカルチュラル・スタディーズ論文集。気鋭の学者26名が切り拓く新しい音楽への視座。

  • 著者
  • マーティン・クレイトン, トレヴァー・ハーバート, リチャード・ミドルトン 編/若尾裕 監訳, 卜田隆嗣, 原真理子, 三宅博子
  • 出版社
  • アルテスパブリッシング
  • 出版年月
  • 2011年02月
  • ISBN
  • 9784903951409

障害者や精神疾患者に意味があろうと思って音楽療法に関わってきたのだが、だんだんこれが西洋近代の産物に見えて来だしたのは、前世紀の終わり頃のことである。もちろん、音楽療法は欧米で始まったものなので、欧米の音楽文化や社会をベースにしたものであるのは致し方ないのだが、問題はわが国にそれが入ってきた後のことだ。われわれアジア人が西洋の音楽で癒されるとしたら、西洋音楽は全人類に普遍的なものなのか? 少し前までほんとうにそう考えられていた節はある。でもいまの時代となっては、それはいくらなんでももう無理だ。少々の無理を承知でいままでの音楽研究に異議を唱えるこの書を私が訳そうと考えたのは、そのような疑問の解決に向けて少しでも歩を進めたかったからだ。

ポストモダニズム、ポストコロニアリズム、ジェンダー研究、ポスト構造主義などの立場に立ちながら、この本の立場はみごとにいままでの研究態度に挑んでいる。もし欠けているものがあるとすれば障害学の視点ぐらいのものだろう。

いまだに19世紀に作り上げられたドイツ中心の音楽史観 (さすがに音楽の父バッハ、音楽の母ヘンデルはもうご勘弁としても) が信じられているわが国の状況を、この本一冊ぐらいでは変えることはむずかしいことぐらいはよくわかっているのだが、少々のバタフライ効果ぐらいは期待したいものである。

人間発達環境学研究科教授・若尾 裕


目次

  • 序章 音楽研究と文化の思想
  • I──音楽と文化
    • 第1章 音楽と生物文化的進化
    • 第2章 音楽学、人類学、歴史
    • 第3章 音楽と文化──断絶のヒストリオグラフィ
    • 第4章 音楽の比較、音楽学の比較
    • 第5章 音楽と社会的カテゴリー
    • 第6章 音楽とその媒体──新しい音楽社会学に向けて
    • 第7章 音楽と日常生活
    • 第8章 音楽・文化・創造性
    • 第9章 音楽と心理学
    • 第10章 主観礼賛! 音楽・解釈学・歴史
    • 第11章 歴史音楽学はまだ可能か?
    • 第12章 社会史と音楽史
  • II──さまざまな論点から
    • 第13章 音楽の自律性再考
    • 第14章 テクスト分析か、厚い記述か?
    • 第15章 音楽、体験、そして情動の人類学
    • 第16章 音楽の素材、知覚、聴取
    • 第17章 パフォーマンスとしての音楽
    • 第18章 ネズミと犬について──世紀末における音楽、ジェンダー、セクシュアリティ
    • 第19章 差異を糾弾する──アフリカ民族音楽研究批判
    • 第20章 名称がもたらす差異──アフリカン─アメリカン・ポピュラー音楽にかんする2つの事例
    • 第21章 人々とは誰か?──音楽とポピュラーなるもの
    • 第22章 音楽教育、文化資本、社会集団のアイデンティティ
    • 第23章 楽器のカルチュラル・スタディー
    • 第24章 民族音楽学における「ディアスポラ」の運命
    • 第25章 グローバリゼーションと世界音楽の政治学
    • 第26章 音楽と市場──現代世界の音楽経済学