38人の沈黙する目撃者

38人の沈黙する目撃者

キティ・ジェノヴィーズ事件の真相

1964年、ニューヨークで起きた惨殺事件。だが、事件の目撃者は誰ひとりとして警察に通報さえしなかった。後に社会心理学の「傍観者効果」の代表的な一例となった事件を綴る。

  • 著者
  • A・M・ローゼンタール 著/田畑暁生
  • 出版社
  • 青土社
  • 出版年月
  • 2011年06月
  • ISBN
  • 9784791766086

「キティ・ジェヴィーズ事件」というのを御存知だろうか?1964年、中年の私もまだ生まれていないほど昔なのだが、ニューヨークで、キティ・ジェノヴィーズという名前の妙齢の女性が惨殺される事件が起きた。それだけなら、この事件が多くの人の記憶に残ることはなかったろう。この事件がニューヨーカーたちを震撼させたのは、彼女が犯人に攻撃されるのを多くの人が窓から見たり、悲鳴を聞いたりしながら、誰ひとりとして警察に通報しなかった、という事実なのである。この事柄が話題となり、多くの社会心理学の教科書に、「傍観者効果」の一例として、名前が挙がるようになった。

本書は、この事件について書かれた古典的な著作である。著者は、ニューヨークタイムズ紙編集主幹であったA.M.ローゼンタール。読者は、事件の概要を知ると同時に、これまでこの事件が神話に包まれていて、「38人の目撃者」と言われるが、実際に「見て」いたのは数人に過ぎなかったことなど、実相が伝わっていなかったことも知るだろう。いったいどれほど離れていれば、何もしない自分を正当化できるのかという、ローゼンタールの問いかけは重い。また、監視カメラが各所に備えられつつある現代における「傍観者」の意味についても、示唆するところは大きいと信ずる。

人間発達環境学研究科准教授・田畑暁生