本書は、学術入門書シリーズとして定評のある世界思想社の「学ぶ人のために」シリーズの一点として刊行された。そもそも、アジア系アメリカ文学研究の歴史は、1974年の作家フランク・チンほか編集による初のアンソロジー『アイイイ!』の刊行に始まり、1982年のカリフォルニア大学教授エレイン・キムによる初の本格的研究書『アジア系アメリカ文学−作品とその社会的枠組』(邦訳:植木照代・山本秀行・申幸月訳、世界思想社、2002年) で本格化し、現在、アメリカの大学 (・学界) では最も「ホット」な人文系分野の一つとして活発に研究教育が行われている。一方、日本におけるアジア系アメリカ文学研究の歴史は、1989年の創設以来、本分野の研究を牽引してきたアジア系アメリカ文学研究会 (略称AALA、以下AALAと記す) の活動の歴史そのものと言っても過言ではない (現在、私が事務局長を務めている)。本書は、2001年の本邦初のアジア系アメリカ文学研究書『アジア系アメリカ文学−記憶と創造』(AALA編、大阪教育図書) に続く、AALAの主要メンバーによる研究書であり、「新たな潮流・理論の紹介とともに、国・民族・文化の境界がボーダーレス化・トランスナショナル化・ハイブリッド化してゆく21世紀の観点から捉えなおすアジア系アメリカ文学入門書の決定版」(本書<帯>の宣伝コピー) である。
入門書という位置づけの本書ではあるが、日本を代表する専門家たちによる最新の研究成果に基づく論文やコラムを収録し、巻末には「文献案内」「年表」も付して、一般読者や学生などの初学者はもちろんのこと、専門家・研究者など、高度なレベルの読者のニーズに応えうるものになっていると確信している。
大学院人文学研究科教授・山本秀行