アジア系アメリカ文学を学ぶ人のために

アジア系アメリカ文学を学ぶ人のために

アジア系移民150年の歴史に散りばめられた文学的遺産・新たな潮流・新しい作家・作品・理論を紹介する、アジア系アメリカ文学の入門書。

  • 著者
  • 植木照代 監修/山本秀行, 村山瑞穂
  • 出版社
  • 世界思想社
  • 出版年月
  • 2011年09月
  • ISBN
  • 9784790715399

本書は、学術入門書シリーズとして定評のある世界思想社の「学ぶ人のために」シリーズの一点として刊行された。そもそも、アジア系アメリカ文学研究の歴史は、1974年の作家フランク・チンほか編集による初のアンソロジー『アイイイ!』の刊行に始まり、1982年のカリフォルニア大学教授エレイン・キムによる初の本格的研究書『アジア系アメリカ文学−作品とその社会的枠組』(邦訳:植木照代・山本秀行・申幸月訳、世界思想社、2002年) で本格化し、現在、アメリカの大学 (・学界) では最も「ホット」な人文系分野の一つとして活発に研究教育が行われている。一方、日本におけるアジア系アメリカ文学研究の歴史は、1989年の創設以来、本分野の研究を牽引してきたアジア系アメリカ文学研究会 (略称AALA、以下AALAと記す) の活動の歴史そのものと言っても過言ではない (現在、私が事務局長を務めている)。本書は、2001年の本邦初のアジア系アメリカ文学研究書『アジア系アメリカ文学−記憶と創造』(AALA編、大阪教育図書) に続く、AALAの主要メンバーによる研究書であり、「新たな潮流・理論の紹介とともに、国・民族・文化の境界がボーダーレス化・トランスナショナル化・ハイブリッド化してゆく21世紀の観点から捉えなおすアジア系アメリカ文学入門書の決定版」(本書<帯>の宣伝コピー) である。

入門書という位置づけの本書ではあるが、日本を代表する専門家たちによる最新の研究成果に基づく論文やコラムを収録し、巻末には「文献案内」「年表」も付して、一般読者や学生などの初学者はもちろんのこと、専門家・研究者など、高度なレベルの読者のニーズに応えうるものになっていると確信している。

大学院人文学研究科教授・山本秀行


目次

  • Ⅰ エスニシティから見るアジア系アメリカ文学
    • 1 日系文学のパイオニアたち ― 一世文学の誕生
    • 2 日系アメリカ文学(戦後…本土) ― 表象としての「マンザナール」をめぐって
    • 3 日系アメリカ文学(戦後…ハワイ) ― 「ローカル文学」への道のり
    • 4 中国系アメリカ文学の歴史的展開 ― 初期移民文学からディアスポラ文学まで
    • 5 コリア系アメリカ文学の流れ ― 断片化された記憶から紡がれる亡命者たちの語り
    • 6 フィリピン系アメリカ文学 ― アメリカ植民の歴史を負って
    • 7 ヴェトナム系アメリカ文学 ― ヴェトナム戦争を超えて
    • 8 南アジア系アメリカ文学 ― その周縁性と可能性
  • Ⅱ ジャンルの多様性
    • 9 アジア系アメリカ演劇・パフォーマンス ― 見えるもの/見えないものを表象する
    • 10 アジア系アメリカ人の詩 ― アジアとアメリカ
    • 11 アジア系アメリカ児童文学 ― 境界線上の子どもたち
    • 12 大衆文学 ― 「越境」のみえる場所
    • 13 公文書との出会いと記憶の再生 ― ストーリーを生み出す歴史文書
  • Ⅲ パースペクティヴの多様性
    • 14 アジア系女性作家の作品におけるジェンダー/フェミニズム ― M・K・キングストンを中心に
    • 15 クイア・ポリティックス ― 性の文化戦略
    • 16 ディアスポラの女性の自己再生 ― バーラティ・ムカジーの作品にみるインド出身女性たち
    • 17 アジア系アメリカ文学および研究にみる他世界との交渉 ― 「アジア系ポストコロニアル批評」の可能性
    • 18 アジア系アメリカ文学にみる異人種間関係 ― 「ポストエスニック」時代の異人種間結婚のテーマを中心に
    • 19 ヒストリー/フィクションの境界撹乱 ― K・T・ヤマシタの『ぶらじる丸』にみるトリックスター性