ビジネス・インフラの明治

ビジネス・インフラの明治

白石直治と土木の世界

明治期、政府によるインフラ整備が遅々とするなか、鉄道、港湾、電力などの整備に奮闘した白石直治。彼を通して、民間のビジネス・インフラ建設、日本近代化過程のダイナミズムを探る。

  • 著者
  • 前田裕子
  • 出版社
  • 名古屋大学出版会
  • 出版年月
  • 2014年10月
  • ISBN
  • 9784815807887

明治期、国家の近代化に乗り出した日本において、まずなすべきことは近代的なインフラの建設であった。財政難の折、政府によるインフラ整備が遅々とするなか、民間においても鉄道や港湾などのインフラ・ビジネスに参入する動きがみられたが、いわゆる大手ゼネコンや建設コンサル不在の状況下、事業者にとって最大の問題が、そのビジネスの基盤となるインフラ(本書ではこれを“ビジネス・インフラ”と呼ぶ)の建設であったといってよい。

本書は、こうした民間のビジネス・インフラ建設を通して、日本の近代化過程のダイナミズムを探る試みである。話の展開軸として注目した白石直治は、当時希少な日本人最上級の土木工学者/技術者でありながら、官位栄達の途を捨てて民間事業に関わり続け、その意味で異色の存在でもあった。ここで考察する白石主導のビジネス・インフラは、関西鉄道(明治期五大私鉄の一角)、若松築港(筑豊炭の最大の積出港)、三菱長崎・神戸造船所の船渠、猪苗代水力電気(画期的な長距離高圧送電を実現)など、重要なインフラ整備分野をカバーしており、当時の民間エネルギーの発露や方向性を示すとともに、人々が社会・経済発展へのさまざまなハードルを乗り越えていった経過の証言でもある。

経済学研究科・准教授 前田裕子


目次

  • 序章 明治期日本のインフラ・ビジネス/ビジネス・インフラと技術者
  • 第1章 近代土木技術者と教育—もう一つのインフラストラクチュア
  • 第2章 近代移行期の土木事業—建設業界の構造と変遷
  • 第3章 関西鉄道—官の対岸の私鉄
  • 第4章 若松築港—海陸連携地域開発の要
  • 第5章 三菱の建築所—近代移行期の企業内建設機能
  • 第6章 猪苗代水力電気—次世代に向けてのエネルギー開発
  • 終章 白石直治をめぐる世界とその時代