美術の誘惑

美術の誘惑

美術は、単に優雅な趣味の対象ではない。政治経済と深く関わり、生老病死を彩り、人の欲望や理想を反映する。そんな美術の誘惑についての、一期一会の物語。

  • 著者
  • 宮下規久朗
  • 出版社
  • 光文社
  • 出版年月
  • 2015年06月
  • ISBN
  • 9784334038649

本書は、『産経新聞』夕刊に毎月連載している「欲望の美術史」の約2年間分の記事を、それぞれ大幅に加筆してまとめたものである。2013年6月以前の2年間の連載分は、同じ光文社新書の『欲望の美術史』にまとめてあるので、併せて読んでいただければ幸いである。

本書はその続編に当たり、似たようなトピックが並んでいるが、私にとっては前著『欲望の美術史』とは少しスタンスがちがう。それは、エピローグに書いたとおりで、私情を表出してしまっている点である。私は2年前の5月、本学経営学部を卒業したばかりの一人娘の麻耶を病で喪い、それ以来、美術史にも仕事にもすっかり熱意を失ってしまった。虚脱状態のうちに、時事的なテーマを中心に、失いつつある美術への興味をかきたてつつ細々と書き綴ったものを集めたものである。「欲望」というタイトルはもはや適当ではないが、まだ美術にはかろうじて誘惑する力があると思い、このタイトルとなった。

本書最後に掲載した「白い蝶」と「エピローグ」には、私の心情や娘への思いを吐露しており、神戸森北町の墓地に建てた娘の墓の写真も載せていただいた。私の20冊目の単著となる本書は、こうして娘に捧げるものとなった。

研究成果を披瀝する学問的なものでも鋭利な美術評論でもなく、私の個人的な嗜好や感慨による美術漫談にすぎないが、オールカラーで図版はいずれも美麗なので、手にとっていただければ幸いである。

人文学研究科・教授 宮下規久朗


目次

  • プロローグ 美術館の中の男と女
  • 第1話 亡き子を描く
  • 第2話 供養絵額
  • 第3話 子供の肖像
  • 第4話 夭折の天才
  • 第5話 人生の階段
  • 第6話 清貧への憧れ
  • 第7話 笑いを描く
  • 第8話 食の情景
  • 第9話 眠り
  • 第10話 巨大なスケール
  • 第11話 だまし絵
  • 第12話 仮装
  • 第13話 釜ヶ崎の表現意欲
  • 第14話 刺青
  • 第15話 一発屋の栄光
  • 第16話 コレクター心理
  • 第17話 自己顕示欲
  • 第18話 ナルシシズム
  • 第19話 ナチスの戦争画
  • 第20話 官展と近代のアジア美術
  • 第21話 日本の夜景画
  • 第22話 折衷主義の栄光と凋落
  • 第23話 三島由紀夫
  • 第24話 琳派とプリミティヴィスム
  • 第25話 白い蝶
  • エピローグ 美術の誘惑