水の都ヴェネツィアは、たぐい稀な「美の都」でもある。千年以上にわたり独立を保ち「アドリア海の女王」と呼ばれたこの都市国家は、ティツィアーノらの天才画家を生み、ヴェネツィア絵画は長らくイタリアのみならず、西洋美術で最高のブランドとされた。また、ヨーロッパ中から一流の芸術家が集まり、つねに新たな様式の発信地でもあった。
町のあちこちに息づき、いまも新しさを加えている建築や美術を切り口に、こうしたヴェネツィアの歴史と魅力を存分に紹介する。ヴェネツィア美術というとルネサンスばかりを想起しがちだが、本書は中世やバロックに注目し、一千年にわたるヴェネツィアの美術の連続性と特質を示そうとした。2012年に塩野七生氏との共著で新潮社から上梓した『ヴェネツィア物語』の原稿が雛形となっているが、それを大幅に増補改訂し、日本ではじめてのヴェネツィア美術の通史にした。
ヴェネツィアの見どころのガイドにもなっているため、本書を手に、実際にヴェネツィアに旅行していただければ幸いである。
人文学研究科・教授 宮下規久朗