聖と俗

聖と俗

分断と架橋の美術史

西洋美術における聖と俗は、宗教改革による分離・融合を経てどう展開したのか。日本の聖像展示と秘匿の問題、供養・奉納の意味を持つ象徴など、聖と俗をテーマにした多様な論集。

  • 著者
  • 宮下規久朗
  • 出版社
  • 岩波書店
  • 出版年月
  • 2018年05月
  • ISBN
  • 9784000612524

本書は、この十数年に様々な媒体に発表した論文の中から「聖と俗」というテーマによって選び出し、いくつかの論文を書き下ろして加えたものである。中世以来、西洋美術は聖と俗をどのように表現してきたか、それが宗教改革によって分離・融合してバロック美術にどのように結実し、近代美術でどのように展開したかという問題は、2001年の『バロック美術の成立』(山川出版社) 以来、私の一貫したテーマであった。2003年の『カラヴァッジョ 聖性とヴィジョン』(名古屋大学出版会) では、幻視と顕現のリアリズムをカラヴァッジョ芸術の特質として捉えようとした。

本書はより広く、カラヴァッジョを生み出した北イタリアの土壌や、カトリック改革や絶対王政の生み出したバロック美術、さらに現代美術や日本における聖像の展示と秘匿の問題、絵馬やエクス・ヴォート (奉納画) のような民衆的な画像や遺影など死の表象をめぐる論文を集めて構成したものである。

最後に書き下ろした「供養と奉納」という長い論文は、それ自体が追悼のエクス・ヴォート (トーテンターフェル) となっているということは、私の読者にはおわかりいただけるだろう。

人文学研究科教授 宮下 規久朗


目次

  • 序 聖俗の分断――宗教改革と美術
  • Ⅰ バロックの聖とイメージ
    • 聖俗の食卓――近世ミラノ美術の水脈
    • レオナルドの鉱脈――ミラノ派からカラヴァッジョへ
    • ヴァザーリとカトリック改革
    • 王権のイリュージョン――バロック的装飾と宮殿
  • Ⅱ 日本の聖と俗
    • 展示と秘匿
    • 発酵するイコン――かくれキリシタン聖画考
    • 殉教の愉悦――聖セバスティアヌス、レーニ、三島
  • Ⅲ 聖と死
    • 召命と否認――伝サラチェーニ《聖ペテロの否認》をめぐって
    • アンディ・ウォーホル作品における聖と俗
    • 供養と奉納――エクス・ヴォート、追悼絵馬、遺影