カラヴァッジョが一六〇〇年にローマで発表したデビュー作「聖マタイの召命」は、劇的な明暗効果や現実的な描写によって従来の宗教画を刷新し、バロック美術の幕開けを告げた。しかし、この美術史上の名画にはまだわからないことがある。肝心の主人公の聖マタイがどこにいるかで意見が分かれているのだ。これを「マタイ問題」という。この問題をめぐって、宗教改革後の神学論争や、「召命 (ベルーフ)」についてのマックス・ウェーバーのいわゆる『プロ倫』のテーゼを紹介しながら、カラヴァッジョの他の作品や、召命や殉教などの意味を掘り下げて解釈し、高校生にもわかるように説明した。一枚の絵を読み込むことによって、西洋美術の奥深さや美術史という学問のおもしろさがわかるという美術史学への入門書でもある。
人文学研究科・教授 宮下 規久朗