アジア系トランスボーダー文学

アジア系トランスボーダー文学

アジア系アメリカ文学研究の新地平

既存のアジア系アメリカ文学の枠組みをさまざまな面において広げ、「アジア系トランスボーダー文学」として研究を進展させる論集。

  • 著者
  • 山本秀行, 麻生享志, 古木圭子, 牧野理英
  • 出版社
  • 小鳥遊書房
  • 出版年月
  • 2021年10月
  • ISBN
  • 9784909812650

本書の構成を簡単に紹介する。第Ⅰ部「領域的・地理的トランスボーダー化するアジア系文学研究」は、ヴェトナム系アメリカ難民の文学、初期アジア系アメリカ文学、日系日本語文学、野口米次郎 (ヨネ・ノグチ) の翻案探偵小説、ジュンパ・ラヒリのトランスボーダー文学、ジェーン・オースチンの『分別と多感』を捩ったカレン・テイ・ヤマシタ最新作『三世と多感』(2020) など、アメリカとアジアの間を往還する「世界文学」としての領域的・地理的トランスボーダー化するアジア系文学を扱っている。第Ⅱ部「アジア系文学のジャンル的トランスボーダー」は、SF、グラフィック・ノベル、クイア文学、実験詩、原爆文学など、ジャンル的トランスボーダーとも言えるほどのジャンル的な広がりをみせるアジア系文学を扱っている。第Ⅲ部「トランスボーダー化するアジア系文学の研究パースペクティヴ」は、エコクリティシズム、マルチカルチュアリズム/マルチレイシャリズム、インターレイシャリズム、人種的ハイブリディティ、ポリカルチュアリズムなどのトランスボーダー化した研究パースペクティヴにより、アジア系文学を扱っている。このように、本書は、従来の「アジア系アメリカ文学」の枠組では捉えきれない領域的・地理的のみならずジャンル的・パースペクティヴ的にもトランスボーダー化したアジア系文学を、「アジア系トランスボーダー文学」として研究を進展させる論集である。

人文学研究科 教授 山本秀行


目次

  • 序 アジア系アメリカ文学研究の新地平を目指して
  • 第Ⅰ部 領域的・地理的トランスボーダー化するアジア系文学研究
    • 第1章 ヴェトナム系アメリカ難民の文学――創造と再生
    • 第2章 初期アジア系アメリカ文学のトランスボーダー性――スイシンファーの作品を再読する
    • 第3章 日系日本語文学におけるトランスボーダー性――移民地文芸の探求において
    • 第4章 野口米次郎の翻案探偵小説探訪――『幻島ロマンス』(一九二九年)の東京府地図
    • 第5章 根(ルーツ)を下ろす場所を求めて――トランスボーダー文学としてのジュンパ・ラヒリ『その名にちなんで』
    • 第6章 ボルヘスとオースティン――カレン・テイ・ヤマシタの『三世と多感』における迫害言説への抵抗
  • 第Ⅱ部 アジア系文学のジャンル的トランスボーダー
    • 第7章 SFとしてのアジア―アジアSF前史――ディック、ロビンスン、チャンへ至る歴史改変想像力
    • 第8章 アジア系グラフィック・ノベルの現在
    • 第9章 二一世紀のアジア系セクシュアル・マイノリティ文学――交差する人々の物語
    • 第10章 アジア系詩人フレッド・ワーの実験詩――『センテンスト・トゥ・ライト』における「ハイフネーション」の機能
    • 第11章 日系文学と原爆――ナオミ・ヒラハラの〈マス・アライ〉シリーズにみる放射能汚染とポスト植民地主義の言説
  • 第Ⅲ部 トランスボーダー化するアジア系文学の研究パースペクティヴ
    • 第12章 人新世における共生の物語――ヒロミ・ゴトーの『ダーケスト・ライト』
    • 第13章 ヴェリナ・ハス・ヒューストンの戯曲にみる多文化多人種の象徴としての「茶」の役割
    • 第14章 日系カナダ人と先住民の交差――ジョイ・コガワの小説から考える
    • 第15章 人種ハイブリッディティから生じる不安と超克――ニーラ・ヴァスワニの『あなたが私に国をくれた』
    • 第16章 フレッド・ホーの〈アフロ・エイジアン・コネクションズ〉にみるポリカルチュアリズムとその新たな可能性