本書は、現代社会で広く信じられている「科学は、世界の真理をすべて解き明かし、それを説明できる」とする考え方を、今一度、見直してみませんか?という趣旨のエッセイ集です。科学という体系が、世界を説明する方策として、現時点で、他の何より優れているものであることは間違いないと思います。しかし、科学的真理と呼ばれているものの多くは、現在、そう考えるのが最も妥当であるということに過ぎず、この先、変わっていくことがありうる仮説の集合体です。
世界の姿は、決して確定的なものではなく、煎じ詰めれば、「分からない」ことに覆われているというのが本当ではないかと思います。科学がいかに発展しようと「ゼロリスク」のようなものはありません。科学信仰に陥るのではなく、「分からない」を含有した科学観を育てることが、本当の意味で、私たちがこの世界と向き合い、生きていく道になるのではないのか?そんなことを問いかけています。
大学院農学研究科 教授 中屋敷 均