近代韓国のナショナリズム

近代韓国のナショナリズム

韓国のナショナリズムは、なぜあれほどまでに強烈なのか。苦難と激動に満ちた朝鮮半島の近代を、ナショナリズムの視点から再考する。

  • 著者
  • 木村幹
  • 出版社
  • ナカニシヤ出版
  • 出版年月
  • 2009年05月
  • ISBN
  • 9784779503436

朝鮮半島における近代。それがこの半島に住む人々にとって過酷な時代であったことは今更言うまでもない。西洋の衝撃に伴う政治的混乱と、引き続く、清国、日本、ロシアによる激しい覇権争い、そしてその果ての日本による植民地化。

彼等にとっては、1945年8月15日の、日本による解放さえ、苦難の物語の終わりではなかった。日本の敗戦により、「上から与えられた解放」の結果、朝鮮半島は北緯38度線を境に、米ソ両国に分割占領され、そこから独立の道を模索しなければならなかった。結果、朝鮮半島の南北には、大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国という二つの国家が樹立され、両者の対立は朝鮮戦争という大きな悲劇へと帰着する。朝鮮半島の南半に成立した大韓民国はここから自らの生存の道を模索した。戦火に焼き尽くされた国土に、貧困に喘ぐ人々。政治は独裁化を強め、更には、軍事クーデタさえ経験した。

苦難と激動の朝鮮半島の近代。その中で、朝鮮半島の人々のプライドは、繰り返し踏み躙られた。しかし、朝鮮半島のナショナリズムは、このような過酷な状況の中、着実に成長しやがて、韓国を目覚しい経済成長へと導いた。それでは韓国のナショナリズムは、如何にして、この国を導き、今日の韓国を作り上げてきたのだろうか。

本書は、このような問題意識から書かれた、筆者の研究の記録である。その構成は大きく四つに分かれている。まず、序論として、わが国の朝鮮半島研究が抱える根本問題について考え、その為に研究者が何をなすべきかを考える。そのことなしに、我々の研究を位置づけることはできないからである。そして続く第一部では、本書の前提となる、研究の方法、就中、キーワードとなる、文化と近代、そしてナショナリズムについての理論的検討を行う。

第二部では、実際の歴史的過程について分析する。対象となるのは、西洋の衝撃が到来してから、日本統治が行われた時期までであり、この最も苦難に満ちた時期において、朝鮮半島のナショナリズムがどのような前提条件の下、どのような状態に置かれていたかを考察。最後に第三部では、解放以降、今日までの韓国ナショナリズムを巡る諸相について、分析する。韓国のナショナリズムはどのような変遷を遂げ、それは現在の韓国、或いは日韓関係にどのような陰を投げかけているのか。

その評価は、読者諸氏に任せることしたい。多くの人々が本書を紐解いていただければ幸いである。

大学院国際協力研究科教授・木村 幹


目次

  • 序章 日本における朝鮮/韓国研究――「地域研究」と「外国研究」として
  • 第一部 朝鮮半島研究とその視点――地域研究の課題
    • 第一章 研究手法について 
    • 第二章 近代と文化をめぐって――比較文化研究への一視座として
    • 第三章 産業社会における分業と政治
  • 第二部 韓国における近代とナショナリズム
    • 第四章 「高宗」から見た韓国併合――韓国近代史に位置づける
    • 第五章 朝鮮/韓国における「近代」と国家
    • 第六章 朝鮮/韓国における近代と民族の相克
    • 第七章 総力戦体制期の朝鮮半島
  • 第三部 解放以後の韓国ナショナリズム
    • 第八章 大韓民国の「現実」とその喪失――李承晩と朴正煕をめぐって
    • 第九章 サッカー日韓戦を通じて見た韓国ナショナリズム
    • 第十章 九七年末通貨危機の中の韓国ナショナリズム
    • 第十一章 日韓関係における「歴史の再発見」
  • 終章 グローバル化のなかの隣国関係――日韓関係を中心に