雅楽を聴く

雅楽を聴く

響きの庭への誘い

日本古来の歌舞と大陸伝来の楽を1300年以上にわたって伝えてきた雅楽。その古えの音を現代の楽人が奏で現実空間に鳴り響かせる場へ案内する。

  • 著者
  • 寺内直子
  • 出版社
  • 岩波書店
  • 出版年月
  • 2011年03月
  • ISBN
  • 9784004313021

日本古来の歌舞と大陸伝来の楽を1300年以上にわたって伝えてきた雅楽。しかしその響きは一様ではなく、劇場、神社の杜、町中の寺等々、鳴り響く場所ごとに異なった魅力を放って来た。本書は場所=トポス toposの力に注目し、雅楽が鳴り響く5つの「庭」を訪ねる。

まず、千年の都・京都の御所を訪ね、様々な宮廷行事と雅楽の歴史を振り返り、儀式の場の音響や演出について考える。

次に、奈良の春日若宮おん祭りを訪ねる。奈良の市街から東の春日山麓にわたる広大な空間を舞台に、古代、中世、近世、近代以降に成立したさまざまな儀式や芸能が、どのような場所を利用して演じられるのかを見ながら、雅楽の魅力を紹介する。

第三に訪ねるのは、大阪の市街地に位置し、庶民信仰でにぎわう四天王寺である。毎年4月22日に行われる聖霊会は、平安時代の「舞楽法要」の形式をよく残す。吉田兼好をして「天王寺の舞楽のみ都にはじず」と言わしめた壮麗な儀式の歴史と、天王寺というトポスについて考える。

第四の「庭」は、東京の皇居内にある宮内庁式部職楽部である。巨大都市東京の中心の森と水に囲まれた空間で、江戸から近現代にかけて雅楽はどのように響いてきたのか、歴史を振り返る。

最後に、皇居の西のお濠端に立つ国立劇場を訪ねる。国立劇場では、1966年の開場以来、雅楽を上演して来たが、その内容は40年余の歴史の中で決して一様ではない。本書では、国立劇場の企画の中で生まれた様々な新しい試みを検証しつつ、雅楽の新たな可能性について考える。

国際文化学研究科教授・寺内直子


目次

  • 序章 雅楽とは
  • 第1章 京都御所 —主を失った千年の雅の庭
  • 第2章 奈良春日若宮おん祭 —古の神との交歓の庭
  • 第3章 大阪四天王寺聖霊会 —庶民のエネルギー渦巻くお太子信仰の庭
  • 第4章 東京宮内庁楽部 —巨大都市東京の中心に存在する空洞の庭
  • 第5章 国立劇場 —新しい創造の庭
  • 終章 雅楽を聴く —空間と時間の意味、または立体的雅楽史